みなさんこんにちは、ミライエコールです。先日、以前紹介した生徒会活動支援協会さんをお招きしてのイベントが無事終了したので、今回の記事では当日の内容を紹介します!
- 企画実行の経緯と目的
- 参加者について
- 当日の流れとその詳細
以上がこの記事の流れです。
1. 企画実行の経緯と目的
生徒会活動支援協会さん(以降読みやすさの観点から敬称略とさせていただきます)は、「18歳選挙権」の導入を契機に、「新しい生徒会」を広めていくことで「子ども・若者参画社会」の実現を目指しています。詳しくは、生徒会活動支援協会のウェブサイトをご覧ください!私たちミライエコールは「生徒が学校生活に関する自分の考えや意見を言えること」などを目標に日々活動しています(詳しくはこちら)が、これはまさに生徒会活動支援協会の問題意識にある、生徒の意見が反映されにくい学校組織の体制や、学校や教員の生徒会に対する理解の乏しさを是正しようということに通ずるものです。そのため、このたびイベントを実施させていただきました。
先ほど述べたように、生徒会活動支援協会の日本の学校における生徒会活動についての問題意識は私たちが持つものと重なる部分が多いと感じました。そこで、様々な立場から生徒会活動のあるべき姿、存在意義などを考えたり、実態とのギャップから問題提起をしたりすることで、生徒会活動についての考えを深めることを目的としたパネルディスカッションを企画しました。生徒会活動支援協会様には、日本全国の様々な学校における生徒会活動に関する有識者として参加していただきました。
今回のパネルディスカッションでは、登壇者に東京大学の小玉重夫客員教授(白梅学園大学学長)を加えて行いました。ミライエコール代表の山口セナが司会進行役となり、生徒会活動支援協会の担当者の方と小玉先生とで、弊団体が提示させていただく議題で、どんな議論をするかなどについて事前に打ち合わせをさせていただき、その流れに則って、企画を進めました。この企画を通して、様々な立場の人がより近い距離で、生徒会活動についてのお互いの悩み、疑問、意見などを、自由に交わしていただこうと考えました。議題についての議論には随時一般客の方にも参加していただきました。また議題の一つである生徒会活動の現状については、主に協会担当者様からお話いただきました。
この企画を通して、様々な立場の人がより近い距離で、生徒会活動についてのお互いの悩み、疑問、意見などを、自由に交わしていただくことを目的としました。当日に何が行われたかについて、詳しくは「3. 当日の流れとその詳細」をご覧ください。
2. 参加者について
このイベントの参加者は、ミライエコールメンバー数名と、生徒会活動支援協会の常任理事を務める猪股大輝さん、専務理事を務める川名悟史さん、東京大学客員教授の小玉重夫先生でした。
猪股大輝さんは東京大学大学院教育学研究科を修了し東洋大学教育学部助教としても活躍されています。専門は教育史(生徒会成立過程史研究)です。川名悟史さんは高校在籍中に生徒会会計、文化祭実行委員会会計局、ホームページ局長として活動されていました。教育社会学や教育行政学を領域に研究されています。
3. 当日の流れと内容の詳細
当日の流れを大まかにまとめると次のようになります。
①ミライエコールと協会、小玉先生からそれぞれ自己紹介
②ミライエコール立ち上げきっかけの話、問題提起
小玉教授の考える生徒会の現状と課題
猪股さんの考える生徒会の現状と課題
川名さんの考える生徒会活動の現状と課題
生徒会の機関としての意義とは
実際に生徒会を変えるには
総括
以下が当日の内容の詳細になります。
① ミライエコールと協会、小玉先生からそれぞれ自己紹介
上記の通り、それぞれが自己紹介を行いました。ミライエコールについて詳しく知りたい方はこちら、生徒会活動支援協会について詳しく知りたい方はこちら、小玉教授について詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
② ミライエコール立ち上げきっかけの話、問題提起
代表の山口からどういった経緯でミライエコールの立ち上げに至ったかの説明をいただきました。あらためて、ミライエコールは「生徒が学校生活に関する自分の考えや意見を言えること」を目指しています。また、ミライエコールは、この活動目的を根幹に生徒は今よりもっといきいきと過ごせるようにする必要があると考えています。
山口は、大まかに分けて、生徒会に入るきっかけ、生徒会長選挙、公約の内容、服装規定の改定、学校組織の問題点について説明しました。
(1) 小玉先生の考える生徒会の現状と課題
生徒会の現状の課題、それについて小玉先生は「本来生徒会は、シティズンシップ(市民教育)、生徒のエージェンシー(主体性)を育むものであるが、現状はそうなっていない」といいます。二つ問題が存在し、一つは一部の意識高い系の生徒、「優等生」が集まっている場合が多いこと、もう一つは学校の秩序に組み込まれ、その枠組を正統化する官僚制の未端に位置しがちであることだそうです。まとめると、「生徒会に参加する生徒の裾野が広がっていない」そうです。
小玉先生は、生徒会の放課後化を進めることが解決の一助になるといいます。生徒会の放課後化とは一体何なのでしょうか。小玉先生は「学校の中の正規の活動外におくこと」を放課後化と定義しています。放課後化が分かりやすく表現されているのが、宮島未奈の小説である『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社、2023)です。地域を巻き込んだ形で人とのつながりを作っていくという、まさに学校外での活動として描かれています。そして、小玉先生によれば、学校の権力構造を組み替えることもまた課題解決の一つの手段であるといいます。スクールポリスからスクールポリティクスへと変革させるのです。ポリスというのは配分の正当化のシステムで、政治(ポリティクス)というのはポリスによって行われた配分を再配置する活動です。
では、権力構造を組み替えるとは具体的にはどのようなことなのでしょうか。これは、「言葉を持った人間と言葉を持たない動物に分けること自体が、係争にかけられる」という、フランスの哲学者ジャック・ランシエールの議論などを使って補足していただきました。権力構造の一例として、先日の水俣での「マイク切り事件」があげられます。水俣病慰霊式が行われた2024年5月1日、患者・被害者団体が伊藤環境大臣に苦悩を訴える懇談会の最中、環境省の職員が団体側のマイクの音を絞っていた事例も小玉先生に紹介していただきました。
ここでさらに、小玉先生は不和についてお話しされます。不和とは、例えばアウェンティヌスの丘の寓話においてバランシュは、平民の声が音としてではなく言葉として聞き取られたこと、それによって、平民と貴族が対等に話したことを指摘します。ここに、感性的なものの分割が再配置され、政治(ポリティクス)とポリスの分断が克服される可能性が示唆されるのです
(2) 猪股さんの考える生徒会の現状と課題
(1)では生徒会の現状と課題について述べました。では、元来の生徒会というのはどういうもので、そのときからすでに課題点というものはあったのでしょうか。
猪股さんはニューヨーク郊外の課外教育施設(ウィリアム・ジョージの「少年共和国」という、施設内に子どもが運営する議会・裁判所・警察(刑務所)・理髪店・ホテルなどを備える、アメリカ的な「市政」のミニチュアの運用を通して、アメリカ的な文化を学ぶ施設をまず例に挙げ、そこで大事にされたのは国旗掲揚も含めた形式の模倣、つまりアメリカ的なものへの従属であったことを説明してくださいました。その2年後、ニューヨーク市のロシア系ユダヤ人向け夏季休暇学校で、三権分立型生徒自治制の実践により移民に対する市民性育成を行うための「教育方法」として自治制(今日の生徒会の前身)を学校に導入したのですが、子どもの活動は、活動それ自体の意義ではなく、教育目的の観点からのみ評価されたものであり、生徒の声を聞くものとしての機関ではありませんでした。これが現代の生徒会にもつながっているといいます。
(3) 川名さんの考える生徒会活動の現状と課題
川名さんによると、近年校則を変えたいという声が増え続けていて、実際最近のトレンドになっているのですが、校則を変えることが良いとされる意見が増えている一方、そもそも校則を変えるというのは学生の生活をより良くすることが目的であり、あくまでその手段が校則の変更であると指摘します。方向性の違いというものを感じとっていらっしゃり、前のお二方とは違った切り口から生徒会の現状をお話ししてくださいました。
(4) 生徒会の機関としての意義とは
猪股さんによると、生徒会は元来制度として重視されておらず、戦後から生徒自治会という生徒会の全身のようなものが日本で制度化されるようになったといいます。とはいえ学校側も自治会を作るノウハウは持ち合わせておらず、何をどう作るかで悪戦苦闘します。1960後半から1970にかけて大学で抗争があった頃から、高校生も普段の規則におかしい と抗議をする風潮が起こり始めたと猪股さんは続けます。しかしながら、意見というのは無視できてるうちは無視され、大きくなってやっと届くものであり、生徒の意見を聞くホームルーム制度が生まれた例では、ホームルームが仕組み化され、担任以外の先生が受け持った時には議論が回らなくなるなど、次第に形骸化していったそうです。つまり生徒会は歴史的観点から見れば生徒の意見を積極的に取り入れる機関として機能していないないといえます
小玉先生は、やはり生徒会がカリキュラムの一環に位置付けられていることに問題意識があり、学校のカリキュラムの外に生徒会を出すことが生徒会を活動的に動く機関にするために重要なことであると述べます。ただ他方で、生徒会をカリキュラム外に置くと、裾野が狭まる可能性も示唆します。教務外に出すと関心ある人しか参加しないためです。山口もこの可能性に大変同意します。つまりいい面と悪い面がある放課後化ですが、放課後化しない良い面として生徒みんなが生徒会に関わることができることを挙げています。学生総会は課程内でないと生徒は参加しないと小玉先生は言います。
(5) 実際に生徒会を変えるには
山口は、生徒会の現状に課題意識があり、かつ生徒自身も精力的に生徒会活動を行っている学校もある一方で、そのように学校側が考えていない、危機感を持つ生徒自体も多くない学校では誰がどこから変えれば良いのかというテーマで川名さんに投げかけました。
川名さんは、実際に資料を用い現状を踏まえて説明してくださいました。まず川名さんは、生徒会選挙がそもそも競争的に行われていない学校が多数であり、選挙そのものがとても不調であることが明確だといいます。ある調査では、競争選挙が発生したのは会長選挙で27校中5校のみ、その他の副会長、書記、会計などでは競争選挙はほとんど行われないという現実で、会長選挙でも、すべての事例が定員1に対し2名が立候補する決選投票の様式でした。また、ほとんどの学校で、先生が選挙の調整を行っており、生徒の主体的な行動のみでは生徒会を保てず、教師の働きかけによってなんとか生徒会が維持されていることを踏まえ、いかに生徒会が形骸化しているかを指摘しました。生徒会の活動状況について、まず川名さんは生徒が部活動を重視する実態を説明します。そこで、生徒会予算をまず生徒会の生徒に任せるべきでないかと主張します。予算作成の肝である原案作成、及び予算額の調整に生徒が関与する割合はそれぞれ19%(6/31)、16%(5/31)であり、基本的に教師主導で予算作成が進んでいる実態が明らかになっている上で、行政制度の壁はあれど私立の高校ではある程度の範囲なら生徒でも予算を立てられるため、予算に生徒がどんどん関わるべきだといいます。そして、生徒が自分の学校のことをいろんな人とお話しして、しっかりと学校のことを考える時間も大事だと主張します。教員の愚痴ではなく、今自分が通っている学校でできることを話し合うスモールステップを踏むことの重要性を語ってくださいました。
総括
この他にも様々な興味深いお話がありましたが、大方以上でパネルディスカッションが終わりました。企画終了間際、ミライエコール代表の山口セナと、小玉重夫先生、猪股大輝さん、川名悟史さんから一言いただきました。
山口セナ
「自分の体験談を話して御三方にコメントしてもらうという贅沢な体験ができました。生徒会の成り立ち、課題、ムーブメントの問題点などをお話ししてもらい実りのあるディスカッションができたと思います。」
小玉先生
「今回のようなイベントのほかに個人でもいろいろやっていますので、私のwebサイトに載っているものを見ていただければと思います。また、J-CEFというシティズンシップ教育の団体もいろいろなイベントを開催しております。本日はありがとうございました。」
猪股さん
「私の目線は先生を育てるほうへだんだん上がっていっているのですが、自分の話が素通りしないで抵抗することができたら、生徒会活動の支援がうまくいった瞬間だなと思います。高校生も、自分が発したことによって授業がうまくいかなかったら、「先生今分からなかったんですけど」といったように、そこから考え、探求することで、自治が始まると思っています。」
川名さん
「なかなかこういった形で生徒会について考える機会がないので、生徒会活動支援協会としてもこういった機会を作りたいと思ってますし、生徒会って何だろう、とか、学校って何がいいのか、などを生徒だけでなく保護者や地域の人が考える輪が広がれば良いのかなと思っています。」
生徒会という観点から「生徒が学校で意見を言えるようになるためにはどうしたらいいのか」についてパネルディスカッションを通して考えることはミライエコールにとっては初めてであり、思考の領域がさらに広がりました。また、今回のイベントは五月祭企画としての開催ということもあり、新しい試みで不安もあったのですが、生徒会活動支援協会さんと小玉教授からのお力添えによりなんとか遂行することができました。猪股大輝さん、川名悟史さんをはじめとする生徒会活動支援協会さん、並びに小玉重夫先生にあらためて感謝申し上げます。ありがとうございました。
これからもミライエコールは他団体とのコラボイベントを行っていきますので、読者のみなさまはぜひ記事を楽しみにしていてください。また、この記事がいいなと思った方はぜひ、インスタグラムやX(旧Twitter)で共有してください!ご覧いただきありがとうございました。