次に外的要因について考えます。先ほどの国立青少年教育振興機構の調査によれば、学校での参加の権利が「とても保障されている」「まあ保障されている」と答えた日本の高校生の割合は9割を超えます。しかし、もし「自分が学校の改善のために意見を言っていいと思えるような環境が学校にあると思うか」といったような質問であれば、肯定的な回答はもっと少なくなるのではないかと思います。
たとえば、現在の日本ではブラック校則の見直しがすすんでいますが、生徒がブラック校則の改善について先生と話し合おうとすると、話し合う前に先生にとめられてしまうことがあります(具体例)。
ブラック校則の改善についてではなく「この校則はなんであるのか」といったちょっとした疑問であっても、先生に言うと「昔からそう決まっているから」などさまざまな理由によって、門前払いされてしまうというようなこともあるのではないでしょうか。先ほどの『高校生の社会参加に関する意識調査報告書 − 日本・米国・中国・韓国の比較 − 』によれば、「学校の校則は生徒の意見を反映しているか」という質問に対し「反映している」と答えた学生の割合は2割を下回っているため、多くの学生が不満や意見をもっていることが推測できますが、「生徒と先生が話し合う」というできごとの前に、先生が生徒に対して一緒に話し合うことをゆるさないことがあるのです。
さらに自己肯定感という内的要因に議論をもどします。この自己肯定感の低さは、すべて生徒そのものに起因するものなのでしょうか。僕はそうは思いません。学校内で自ら意見を言い、何かを改善しようとするうえでの自己肯定感が低い原因は、以下のようなものにあると考えます。
①学校生活より前に、家庭内で親に意見を聞いてもらえなかったり否定され続けたりしたことで、自己肯定感が低くなり、「何を言っても変わらない」という諦めの感情が生まれ、学校内の事柄についても自分で変えようと思わなくなった
②小中学校時代に学校を変えようと自分から動くも、先生や他の生徒に意見を聞いてもらえなかったり否定され続けたりしたことで、自己肯定感が低くなったり活動意欲が湧かなくなったりした
③もともとの個人の性格
①について。親に否定される。親にほめられたり認められたりすることがない。親が自分の話を聞いてくれない。何を言っても親に言いかえされる。以上のような経験を幼少期に積み重ねると、子どもの自己肯定感は低くなり、親に対する信頼感も自分自身に対する信頼感も失われてしまうことが予想されます(2)。
自分に対する信頼感を失った状態では活動意欲はわかないし、自分の意見を言うことも難しいでしょう。『高校生の社会参加に関する意識調査報告書 − 日本・米国・中国・韓国の比較 − 』によれば、親とふだん自分の考えや意見について話す日本の生徒の割合は75%ほどで、諸外国と比べるとあまり差はありません。また、日本の高校生の約半分は親に自分の考えを尊重されていると感じるようです。
しかし裏をかえせば、4分の1の学生はそもそも親とふだん自分の意見や考えについて話しておらず、約半分の生徒は親に自分の考えを尊重されていないと感じていることになります。学校内で自分が何を言っても変わらないという諦めの感情は、家庭内で幼少期から積み重ねた挫折に影響するところも大いにあるのではないでしょうか。
②について。幼少期に親が自分に意見を言わせてくれて自分自身への信頼を育むことができていたとしても、学校内で意見をむげに抑圧される経験を積み重ねれば、自分が何を言っても変わらないという諦めの感情が芽生えることになるかもしれません。また、誰かが行動しても変わらなかったという様子を見ていた他の生徒にも、諦めの感情が植え付けられることもあるのではないでしょうか。
③について。自己肯定感の低さはそれぞれ異なる個人の性格によるところもあります。①、②の要因があるので、自己肯定感の形成は後天的側面が大きいのではないかと予想しますが、本人が苦しんでいたり日常生活に重大な影響を及ぼしたりしていなければ、あくまで性格は個性であり、むりやり矯正する必要もないと思います。学校で自分の意見を言うことは大切ですが、すべての生徒が学校生活の改善のために意見を言わなければいけないというわけではないでしょう。
このように、内的要因である自己肯定感の低さも、外的要因に大きく影響を受けていることが考えられます。ゆえに変えなければならないのは外的要因です。前述したように、学校での参加の権利を認められていると感じる生徒の割合は9割を超えています。自分が学校にいることを無条件にゆるされていると感じる生徒は多いのでしょう。
しかし、足りないのは、「無条件に先生と生徒がコミュニケーションすることができること」です。たとえ先生と生徒が話す制度的な環境があったとしても、さまざまな理由で先生が生徒に対して、話し合うこと自体を話し合う前から抑圧したり、話し合っても生徒の意見をむげに抑圧したりしてしまっては、生徒は意見を言うことに意義を見出せず、活動意欲が低下してしまいます。
平成25年度文科省の『特集 今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの〜』によれば、「先行研究でも、家庭・学校・地域で自分が役に立つ存在であることを経験する機会を通じて自分の能力や存在意義を確認することで自信に変えていけるといった指摘がなされている」といいます。つまり活動を通して自己肯定感を高められる可能性があるということです。